舞台「WILD」感想

中島裕翔くん主演舞台、WILDを観ました。とても良い舞台でした!
感動したので、久しぶりにこの場所で感想を残したいと思います。(じゃっかんのネタバレを含みます)


物語は、2013年に起こった「スノーデンの暴露事件」を基にしています。 裕翔くんが演じるのは、アメリカ政府の監視活動を告発しロシアに逃れてきた青年アンドリュー。
登場人物は、アンドリューと彼の部屋を訪ねる女と男、3人だけ。ホテルの一室で繰り広げられる密室劇です。華やかな装置や仕掛けもなく、場面転換すらなく、登場人物の会話の中で心情が揺れて話が進んでいきます。
一言でいうと、地味です。楽しい話ではないし、わかりやすいカタルシスもない。
でもとてもおもしろい舞台でした。
その人がその人であると証明するとはどういうことか、ネット社会の恐ろしさとは、正義とは何か、正義によって世界は良くなるのか、そして、現実とは何か。いろいろな問題を提起していきます。ホテルの一室という気密性が、緊迫感を盛り上げます。見ている者も密室に入り込んだような緊張感で、最後まで物語の世界に浸ることができます。
アンドリューの心情は部屋を訪れる二人との会話によって揺れ動いていきます。その繊細な揺れ動きを、台詞と表情、そして全身で伝えていく裕翔くんの繊細な演技が素晴らしかった!
単調になりかねない展開でも、しっかりと、でも自然にその時の感情を表現されていて、飽きさせることなく物語を引っ張っていってました。


アンドリューという役はとても裕翔くんに合っている役だと思いました。
アンドリューは、盗聴をしていた悪事を暴くという意味では ヒーローです。でも、物語の中では、現実をわかっていないナイーブな甘い人間であるかのように扱われます。それは確かに現実の一側面です。前半はそこに押されています。
アンドリューは、善き人間であろうとする人です。善い行いをしたい、不正なことは正したいと望みます。そして、世界は働きかけによってより良くなると信じています。物語の後半、その純粋な心情をまくしたてるように吐露するシーンがあります。
ここで本当に胸打たれました。泣きました。
アンドリューの心持ちは、真っ直ぐで純粋で正義感の強い裕翔くんとストレートに重なります。
子供のころの夢は人を助ける消防士。正義感にあふれ、曲がったことの嫌いな裕翔くん。真っ直ぐで純粋で誇り高い。ただ、純粋さは不器用なにもつながります。周囲とスムーズにやっていく、という点ではデメリットもあります。純粋さによる周囲との軋轢で苦しんだことも、たぶん多かったのではないかと思います。
でも、今はその性質を、舞台の上で、役として昇華しています。
それは本当にすてきなことです。役者としても、アイドルとしても、そして見ているファンにとっても、幸せな展開です。なのであのシーンが本当に印象的でした。
物語は、その後も「アンドリューは正義のヒーロー」とはいきません。彼らの未来が明るいのかそうでないのかも判然としません。でも、アンドリューの放つ圧倒的な明るい輝きで、暗い印象にはなりません。裕翔くんの持つオーラが舞台に良い影響を与えていました。


約1時間半の舞台で、ほとんどの時間で登場人物が会話をしています。膨大な量の台詞です。場面が変わるわけでもなく、堂々巡りな内容も多いです。覚えただけでもすごい!と思ってしまいます。もちろん、覚えるのは最初の一歩で、それを解釈して演じるのが大変なことです。体力的にはそうでもなくても、本当にハードな舞台だと思います。でもたぶん、充実感があるのでないかと思います。
舞台誌の、演出の小川さんとの対談でこのようなことを話されていました。

小川「今回、本読みをじっくりやらせてもらって、中島さんの勉強熱心さが伝わってきました。」
中島「一週間くらい読み合わせしましたっけ?」
小川「そう、まるで会議みたいな時間でしたね。」
中島「確かにあれは会議でしたね。」
小川「翻訳された台本を一文字ずつ検証していく勢い。」
中島「濃密な時間でした。」
小川「疲れたでしょ。」
中島「ずっと頭をフル回転させている状態でした。そこで小川さんや太田さん、斉藤さんの気づきに引っ張られて、たくさんの刺激を受けました。誰かの疑問点を全員でシェアして解決していくのも面白かったです。」
(2019年STAGE SQUARE 38号)

かなり時間をかけて丁寧に稽古されていたようです。
以前、テレビドラマに出演された際に、考えすぎて役やセリフを考えすぎてモヤモヤしたものを感じいたと語っていました。

普通を演じる大変さを痛感してます。普通がよくわからなくなってくるんですよ。一方自分はというも彼女に振り回されっぱなし。でも、ただ振り回されてるだけじゃ面白くないから僕なりに対応を考えてやっていこうと思ってます。
(中略)
今回はいろいろ考えすぎて混乱しちゃいました。カメラで、ピントが合わないものに必死で合わせようとするようなモヤモヤした気分。それでプロデューサーさんに相談したら「楽しんで演じて!」って。少し前まで何でも楽しんでやってたのに、その感覚を忘れてたなって。
(TV LIFE 2013年2/16号)

このようなことは、たびたび語られていました。映像の現場では、ひとつひとつのセリフを吟味することより、臨機応変に対応することが求められるのでしょう。そこに歯がゆさも感じていたのだと思います。


先ほどの演出家との対談では、このようにも語っています。

中島「戯曲に書かれているセリフの裏の意味というか、登場人物が何を思ってその言葉を発しているのかを明確にせずに口にすると、色々なことが流されてしまうじゃないですか。小川さんはそういう適当さみたいなことを絶対に見逃さず、許してくれないので(笑)、言葉ひとつひとつの意味をより深く考えるようになりました。」

裕翔くんにとって、このように細部まで徹底的に考えることを要求される現場は、とてもやりがいがあるのではないかと思います。丁寧な稽古の上に成り立っていることは見ている側にも十分に伝わりました。
この誌面でもパンフレットでも、作品についてや自分の思いについて明瞭に言葉にされているのに驚きます。瑞々しい感性を豊富な語彙で表現されています。
英語の戯曲も読めるようですし、たくさんのことを勉強して吸収していることがうかがわれます。語彙を手に入れて、感じていることを的確に言葉にすることができるようになったのではと思います。美貌はますます冴え渡り、頭脳の明晰さも増して、本当に素敵な青年になっています。


裕翔くんが全力で取り組むことが、すべて成果となって表れているように思います。実り多い舞台です。このタイミングでこの舞台に出会ってくれて良かったです。舞台自体も素晴らしいし、間違いなく裕翔くんのさらなる飛躍の足がかりになるはずです。
そのような場を見ることができてとても嬉しく思います。


舞台の成功、そしてその後の裕翔くんのますますの活躍をお祈り申し上げます!
フォースと共にあらんことを!!!!