デート10話の完璧なる大団円

月9ドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』が最終話を迎えました。
これまでニートとリケジョという変わった主人公二人がちょっとずつ心近づけていく様子がじっくりと描かれていました。しかしてそれぞれ別の相手と恋を始めたところで9話は終わり、さてどう決着がつくのかと期待をしながら待っていた最終話。二人の恋はどうなるか。というか、鷲尾くんの恋はどういう結末を迎えるのか。本当に楽しみに待っていました。
これが、圧巻の最終回でした。
今まで、過去と現在がぱたぱと錯綜して組み上げていく構成だったのが、過去の話の挿入はぐっと少なめで、大部分が谷口家での依子の誕生日祝いパーティーというワンシーン。この構成だけでも、最終回にかける半端じゃない意気込みが伝わります。クランクアップインタビュー(デート ~恋とはどんなものかしら~ - フジテレビ)で杏さんも松重さんも「劇団」という言葉を出していますが、まさしく劇団のようです。それだけでグッとくるし、そこで繰り広げられる依子と巧の恋の見せ方も圧巻でした。
でもわたしは最初見たときちょっと不満でした。恋とはどんなものか、それを他の人たちに指摘されるという構図だったからです。人に教えられるのではなく、依子に自分で「これが恋か」と気づいてほしかった。多数決とかよくないです。そんなの科学的態度ではありません。いや、科学ではないから尚更だめです。佳織さんと鷲尾くんたちに、「それは恋だ」と言われるという構図は9話でもうやっています。スケート場で、お互いを引きあわせて、お互い好きなんだろと指摘して、そこでこれは恋じゃないときっぱり否定していたのです。鷲尾くんはもうそこで依子のために身を引いていたんです。だからそれを覆すためには、「これは恋だ」と自分で気づいてほしかった。そういう仕掛けが欲しかったです。ちゃんとそれが恋だと気づいて、それで誠意を持って鷲尾くんにお断りしてほしかった。鷲尾くんはちゃんとふられてほしかった。
そう、わたしは鷲尾くんがふられるシーンを楽しみにしていたのです。鷲尾くんがふられるのを見て、鷲尾くんのために『格好悪いふられ方』を心の中で歌う気満々だったのに!!鷲尾くんにはふられるよりもっとひどい結末が待っていました。


ああ、だがしかし、鷲尾くんの恋の終わり方はドラマ史に残る名場面だった!!!!!
鷲尾くんは依子さんの心がまだ巧にあるとわかっています。そこで忘れるために「相手の嫌な思い出を書き出す」とアドバイスをします。いや、まずもってこの場面がインパクトが大きかったんですけど。依子の家でご飯食べてるとか!おうちデートとかいつの間にそんな展開になんったんですか。めっちゃ進展してるではないですか!!鷲尾くんにとっては大事件だったはず!!これがどれだけ嬉しいことだったかと思うと更にせつなさがましていきます。そして「はじめて付き合ってた人を忘れるために」って恋愛経験豊富なところをさらっと出すのがかっこよすぎる。いや、しかしここで大事なのはこのアドバイス。
1話で巧を海に突き落としたのも鷲尾くんだし、依子に女性として魅力があることを見抜いたのも鷲尾くんだし、クローゼットの中から現れて依子がどんなに一生懸命か説いたのも鷲尾くんだし、新年にヘビの太郎を適切に処理したために巧を藪下家に残したのも鷲尾くんだし、依子と巧がデートについて電話で相談し合う仲にするきっかけを作ったのも鷲尾くんだし、今までさんざん依子と巧が心通わせるためのアシストをしてきてしまった鷲尾くんです。その鷲尾くんが放つ、最後の華麗なるキラーパス。依子さんの恋のためのこの上ないアドバイス。
まさか3冊びっしり書くとは…!!!!鷲尾くんがアドバイスしたの5日前ですよ。5日で3冊!!
鮮やかすぎる絶望へのゴール!!!!!
こんな完膚なきまでの敗北があるか!!!!
ドラマ史に残る完璧な恋の敗北です。
そして、ここからが素晴らしかった。
完膚なきまでの敗北を悟った鷲尾くんが「すごいや。完全に逆効果だった。依子さんの頭の中は、谷口さんでいっぱいだ」と語り「ちくしょー」と泣き崩れます。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、鷲尾くん泣かないで!!!
あまりの悲しさに泣きました。そして鷲尾くんの泣き顔の美しさに泣きました。いや、美しくなかった。この世でもっとも美しい顔が、ぐしゃぐしゃに泣いてぶさいくになっていました。そこに胸打たれました。その涙で鷲尾くんの絶望が伝わってきました。
自分の恋が終わったのを悟って「ちくしょー」って泣き崩れるの、そんな筋書き、へたしたらコミカルに傾きすぎるところです。おおげさにやったらコントっぽくなるし、抑えすぎたら感情の動きが伝わらない。難しい場面だったと思います。でも本当にここのさじかげんが絶妙で、ただただ鷲尾くんの悲しみに胸打たれました。
だから本当に最高の失恋シーンになっていました。


だいたい鷲尾くんはいい人すぎます。完全無欠の好青年なのにおごったところはないし、気はきくし誰にでも優しいし、つれなくされても諦めないし、でも好きな人が幸せになるならさっと身を引ける。いい人すぎて、ともすると「物語をすすめるための都合いい存在」になるところです。でも鷲尾くんはちゃんと鷲尾くんとして存在していました。鷲尾くんにリアリティを与えていたのは裕翔くんの演技力だと思います。かっこいいけど、ちょっと抜けてて、純情が過ぎる。そんな鷲尾くんが実在してるようです。


前半で、サプライズパーティーして花束渡して、そしてプロポーズする鷲尾くんは本当にキュートでした。恋に浮かれている様子がありありとわかります。てゆうかもう、「依子さんの夢、自分に叶えさせてください」ってひざまずいてプロポーズですよ!!!最高にかっこいい!!!しかも返事はイエス。心底うれしそうな鷲尾くんは最高にかわいかった。うれしそうだからこそ完膚無き敗北が痛々しい。
恋に破れた後も、「自分は、楽しいことより苦しいことの方が多かったです」と言っては泣き、「依子さんと自分はやっぱり不等号でした。プロポーズ、撤回させてもらいます」と撤退宣言しては泣いていました。悲痛に歪めて泣き顔がせつなかった。差し込む夕日に浮かびだされる鷲尾くんの涙は宝石のように輝きます。そう、美しい泣き顔ではない。だからこそその涙は美しい。
その絶望の中で「自分はやるだけのことはやりました、悔いはありません」と宣言して立ち去る鷲尾くんの凛々しさ。なんとかっこいい去り際でしょう。鷲尾くんは本当に完全無欠の好青年です。パーフェクトスター。裕翔くんに本当によく合っています。


そしてみんなが立ち去って取り残される巧と依子がそれぞれにリンゴをかじる場面。ずるいですよね。今までさんざんセリフの応酬で丁々発止のやりとりをしてきたのに、ここでセリフもなくリンゴをかじりあうとか。最後に心を通わすのをそうやって託すのがすごい。本当に役者を信頼したドラマだなと思います。
でももうわたしは「依子ひどい!!」のモードに入ってたのでこの場面はあんまり入り込めなかったです。だって、プロポーズにイエスを答えたのかとひどすぎます。それは「30歳までに結婚する」という数値目標クリアのためのイエスであって、鷲尾くんと結婚するためのイエスじゃない。鷲尾くんとのデートの思い出も全然出てこないし、極めつけは「わたしは心がない人間です。谷口さんは壊れやすい心を持った人です。わたしはきっとまた壊してしまう」。心がないのに鷲尾くんならいいの!!!??それはあまりにもひどい!!!!!鷲尾くんに対してひどすぎる!!!!!!
だからふたりがうまくいくことに対してじゃっかんの不満すら覚えました。
ああ、だがしかし、そんなひどい仕打ちをされても相手を恨まず幸せを願える鷲尾くんの心根の清らかさ!!!!!そう、依子さんはひどいけど、悪意があるわけじゃない。恋心がないだけです。それをすべてわかって受け入れる鷲尾くん、最高にかっこいい!!!!!!


最後に佳織とといいかんじになるラストもよかったです。「明るくてサバサバした人。あとやっぱり年上がいいです」とからりと年上好きという性癖をぺらるのかわいい。ここから佳織といいかんじになるかもしれないし、そうじゃないかもしれない、未来が広がる終わり方が絶妙でした。
ここで、ああ鷲尾くんは「恋愛適合者」なんだなと思いました。依子のことは真剣に好きで、恋に破れてざっくりと傷ついてるだろうけど、きっと乗り越えていける。相手の嫌いなとこ書き出して、忘れることができる。普通にまた恋愛することができる。恋愛適性があることは1話で提示されていました。そこに戻っていくかんじがまたうまい。いいラストです。


わたしは鷲尾くんを中心にしか見れませんが、どこに視点を置いてもおもしろく見られるドラマだったと思います。ふたりの恋を中心に見ても、鷲尾くんや佳織さんの恋を見ても、それぞれの家族の成長の話と見ても物語が成立しています。それらが組み合わされて見事なタペストリーが織り成されています。
余計なことを考えず、ドラマにのめりこんで見ることができました。
王道月9的ラブストーリーを「幼稚なやつらの考えること」と斬っておきながら、どんなラブストーリーよりもじっくりと恋愛を描いていった気持ちのいい王道月9でした。
好きな人が、すてきな作品ですてきな役回りですてきな演技を披露するのを見られて本当に幸せでした。


それにしてもニートが結局ニートのまま終わるってすごいですね!?35才のニートが恋を成就させて、結局職に就くことなく終わるって画期的すぎる!!!誰の生き方も否定しない、画期的なラストです。